最新インド映画事情
アルカカット
インド人と会話を交わす際の必須知識は政治、クリケット、映画の3つだと言われている。政治とクリケットはとりあえず他に譲るとして、この「インド映画最新事情」は、2006年のインド映画界をざっと振り返り、少なくとも映画の分野で、インド人に遅れを取らないようにすることを目的とするものである。ちなみにこの記事はデリー在住邦人向けに書かれているため、「インド映画」という言葉は、デリーで見ることができる「ヒンディー語映画」または「ボリウッド映画」のことを指す。日本において一部で人気のタミル語映画などには一切触れないのでご了承いただきたい。
■ボーダーレス化とボーダー化

 昨今のインド映画は、ボーダーレス化が進む一方で、ボーダー化が進んでいると言える。その大きな原因となっているのは、マルチコンプレックスまたはシネマコンプレックス(シネコン)と呼ばれる複合型映画館の普及である。まずはボーダーレス化から解説する。

 かつて、インド映画は、歌って踊っての娯楽映画と、シリアスな社会派映画の2つに大別できた。映画館で上映されているのは前者のみで、後者は映画祭やカルチャーセンターなどでしか見ることができなかった。しかし、シネコンの登場により、映画館枠に余裕ができ、後者のような映画も映画館で上映されるようになった。しかも、興行的に成功する社会派映画もいくつか出て来た。その影響により、監督もシネコンで上映されてある程度興行収入が期待できるような作品を作るようになった。こうして、社会派映画でありながら娯楽映画的要素を持つ映画が多く生まれることになった。
  
また、一時期ヒングリッシュ映画と呼ばれるインド製英語映画が流行した時期があった。その時期、映画中に盛り込む英語のセリフの割合に関して、いろいろ試行錯誤がなされていたように思える。全てのセリフが英語の映画があったり、基本的に英語映画だがインドの言語のセリフも散発的に登場する映画があったり、いろいろなパターンがあった。だが、次第にインド人俳優に不自然な形で英語のセリフをしゃべらせることに対する疑問が沸き起こって来たのか、上位中産階級のインド人が日常会話で使う自然な言語、つまり英語と現地語の自然なミックスが主流となって来た。他方、ヒンディー語映画もだんだんオシャレになって来て、英語のセリフが多用されるようになり、ヒングリッシュ映画とヒンディー語映画の垣根はだいぶ低くなった。今年のヒット作のひとつ「Kabhi Alvida Naa Kehna」は、一応ヒンディー語映画だが、ニューヨークを舞台にしており、その言語状態は限りなくヒングリッシュ映画に近い。

 これらはボーダーレス化の例だが、それは逆に、入場料が高いシネコンへ行く経済的な余裕がなく、英語を理解できない庶民を切り捨てることになった。シネコンをターゲットにした映画はそのテーマも大都市の富裕層向けで、農村部の観客は付いていけないことが多い。これがボーダー化である。その影響により、方言を用いた昔ながらのボーイ・ミーツ・ガール&勧善懲悪的映画が逆に庶民の支持を集めるようになる現象も起こっている。特にウッタル・プラデーシュ州東部からビハール州西部で話されているボージプリー方言を使ったボージプリー映画の人気はすさまじい。それと関連し、映画の興行状態は、都市部と農村部では全く傾向を異にするようになっているようだ。都市部で全然流行らなくても、農村部で大ヒットを飛ばす映画があったりするらしい。

■続編映画とリメイク映画の隆盛

 ハリウッドではヒット映画の続編が作られることは珍しいことではないが、ボリウッドではなぜか今まであまり続編が作られて来なかった。だが、2006年になって突然ボリウッドは続編映画を連発するようになり、しかも今のところそれらの映画はほぼ全て興行的成功を収めている。2003年公開のインド初SF映画「Koi… Mil Gaya」の続編「Krrish」、2000年公開の大ヒットコメディー映画「Hera Pheri」の続編「Phir Hera Pheri」、2003年のオムニバス式ホラー映画「Darna Mana Hai」の続編「Darna Zaroori Hai」、2003年公開の傑作コメディー映画「Munnabhai MBBS」の続編「Lage Raho Munnabhai」、2004年公開のバイク映画「Dhoom」の続編「Dhoom 2」などがその例である。

 過去のヒット作をリメイクしたリメイク映画の流行も最近顕著な傾向である。1978年に公開された、アミターブ・バッチャン主演の「Don」は、今年シャールク・カーン主演でリメイクされる。1981年に公開された、レーカー主演の「Umrao Jaan」のリメイク映画も、今年アイシュワリヤー・ラーイ主演で公開される予定である。その他にも多くの作品がリメイク映画リストに挙がっており、この傾向は来年にかけて続きそうだ。

■依然として強い大御所俳優たち

 ボリウッドは現在、世代交代の時期に来ている。90年代の黄金期を支えた俳優たちも既に円熟期に入っており、若いスターの登場が待ち望まれている。リティク・ローシャン、アビシェーク・バッチャン、ジョン・アブラハム、イムラーン・ハーシュミー、ビパー
シャー・バス、プリヤンカー・チョープラー、ヴィディヤー・バーラン、コーンコナー・セーンシャルマーなど、若手のスターや実力派俳優が続々と登場してはいるが、依然としてアミターブ・バッチャン、3カーン、その他の大御所俳優たちの存在感は圧倒的である。特に今年「Rang De Basanti」と「Fanaa」という2本のヒット作を飛ばしたアーミル・カーンや、「Kabhi Alvida Naa Kehna」や「Don」で主演を務めるシャールク・カーン、女優陣ではラーニー・ムカルジー、プリーティ・ズィンター、カージョールなどが根強い人気を誇っている。長い間くすぶり続けて来たが、ここに来て才能を開花させた俳優もいる。その代表格が「Being Cyrus」や「Omkara」などで見事な演技を見せたサイフ・アリー・カーンである。

若手男優の中で今最も注目を集めているのは、アビシェーク・バッチャンである。アビシェークは、国民的英雄アミターブ・バッチャンの息子という親の七光りを持ちながら、2000年のデビュー以来、出る映画出る映画全て失敗作ばかりだった。しかし、「Yuva」(2004年)で才能を開花させると、「Dhoom」(2004年)、「Bunty Aur Bubli」(2005年)、「Sarkar」(2005年)と立て続けにヒット作を飛ばし、今ではいつの間にかインド人の若者に最も人気のあるスターになってしまった。無精ヒゲの若者が最近増えたのは、アビシェークの影響だと言われている。若手女優では、元ミスワールドのプリヤンカー・チョープラーが飛ぶ鳥を落とす勢いである。
 
■ヒメーシュ現象

 インド映画は音楽も重要な要素だ。今インドの音楽シーンを席巻しているのは、ヒメーシュ・レーシャミヤーというシンガーソングライターである。去年から彼のブレイクは始まったが、今年に入ってもその人気は留まるところを知らず、彼が作曲し、自ら歌った「Aksar」、「36 China Town」、「Ahista Ahista」などの曲は軒並み大ヒットを飛ばしている。彼のトレードマークと言えば、視覚的には「野球帽とヒゲ」、聴覚的には「鼻づまりの声とウ〜というハミングの繰り返し」である。彼の曲の多くは非常に似通っているため、聞くとすぐに分かる。同じような曲ばかりなのだが、同じフレーズのリフレインが多いためか、なぜかすぐに耳に残り、いつしか口ずさんでしまっているという洗脳性の強い音楽を作る人物である。個人的には彼のことを「インドの小室哲哉」と呼んでいる。

■好調な2006年のボリウッド

 今年はボリウッドの当たり年となっている。「Rang De Basanti」から始まり、「Malamaal Weekly」、「Gangster」、「Fanaa」、「Phir Hera Pheri」、「Krrish」、「Kabhi Alvida Naa Kehna」、「Lage Raho Munnabhai」などなど、1ヶ月に1本のペースでヒット作を量産している。これらの映画のDVDの多くは既に発売されているので、もし見逃してしまった人がいたら店で買い求め、じっくりと鑑賞して、「10億総映画評論家」の国の人々との会話に役立てていただきたい。



■デリー近郊の映画館情報

 ほとんどの日本人が南デリーかデリー南郊に住んでいることを考えると、オススメ映画館も自ずとその近辺のものとなる。南デリーでオススメなのはPVR系列の二館。

 ・PVRアヌパム(サーケート) PVR Anupam(Saket)
 ・PVRプリヤー(バサントローク) PVR Priya(Basant Lok)

 PVRアヌパムは4スクリーンのシネコンで、南デリーの中心的な高級映画館。チケットは150〜170ルピーほど。席が狭いことと、小さいスクリーンのものがあること、週末は混雑してチケット入手が困難なことが多いこと、などが欠点。PVRプリヤーは1スクリーンの単館。チケットは日と席によってまちまちだが、50ルピー〜150ルピーほど。席数が多いので、人気映画のチケットが入手しやすい。

 グルガーオンの映画館はシネコンが主流であり、どれもそれほど設備に変わりはない。PVR系列とDT系列が二強。

 ・PVRメトロポリタン(グルガーオン) PVR Metropolitan(Gurgaon)
 ・PVRサハーラー PVR Sahara
 ・DTシティーセンター DT City Centre
 ・DTメガモール DT Mega Mall


 PVRメトロポリタンとDTシティーセンターは向かい合っており、映画とショッピングを両立させるのには便利。ただし週末この辺りの駐車場は大変混み合う。DTメガモールは離れた場所にあるため、比較的空いていると思う(休日に行ったことがないので要確認)。PVRメトロポリタンには、シネマ・ヨーロッパ(Cinema Europa)という微妙に高級さが増した映画館が付属している。少し前に封切られた映画や、優れた映画を上映していることが多い。ヨーロッパ映画とは全く関係がない。

 ノイダには、ウェーヴとPVRの二館がある。

 ・ウェーヴ セントラルステージ・モール WAVE Centrestage Mall
 ・PVRスパイス・ノイダ PVR Spice Noida


 どちらもシネコンである。PVRスパイス・ノイダには、PVRスパイス・ゴールドクラスという超高級映画館が付属している。チケットは500ルピー、50席ほどのゆったりとした館内で、リクライニングシートに座って映画を鑑賞でき、軽食・飲み物付き。

 その他にもいい映画館がいくつもできつつあるが、特筆すべきはデリー東郊カウシャビーにあるアドラブス(Adlabs)。ここにはアイマックス・シアター(Imax Theatre)があり、巨大スクリーンで3D映像の映画を体験できる。

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