予防接種のお話

 2008年2月
                        在インド日本国大使館 医務官 藤嶋浩司

 途上国で勤務していてもっともよく受ける質問の一つが予防接種に関する質問です。「インドに赴任するのだが、どんな予防接種を受ければよいのか?」「時間がなくて日本でA型肝炎のワクチンを2回しか受けられなかったが、インドでも安全に受けられるか?」「インドにきたら腸チフスのワクチンを受けるように言われたが、必要か?」などなど...。今回は予防接種(ワクチン)のお話です。

1.なぜ予防接種を受けるのか?

 最近では「ガンワクチン」なんて言うのもできつつありますが、基本的には予防接種は「感染症を予防するためのもの」です。ここで間違えてはいけないのは、「感染しないためのもの」ではなく、「感染しても発病しないようにするためのもの」ということです。現在のワクチンでは感染そのものを予防することは困難です。

 感染症の予防には、「個人防衛としての予防」と「集団(社会)防衛としての予防」の二つの意味があります。すべての予防接種は前者の意味を持っていますが、多くの人が接種を受けることにより、その集団(社会)の中でその病気の発生率を大きく減らすことができ、その結果各個人がその病気にかかりにくくなる場合、後者の意味も持つことになります(たとえば麻疹の予防接種がこれに当たります)。

2.ワクチンの種類

 ワクチンには大きく分けて3種類のものがあります。

(1)不活化ワクチン:死んだウイルス又はウイルスの一部を利用したもの
(2)生ワクチン  :毒力を弱めた生きたウイルスを利用したもの
(3)トキソイド  :病原体の毒素に対するワクチン

分類 ワクチンの例
不活化ワクチン:インフルエンザ、百日咳、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病など
生ワクチン:ポリオ(経口)、麻疹、風疹、流行性耳下腺炎、水痘など
トキソイド:破傷風、ジフテリア

3.ワクチンの副反応

 薬で「副作用」にあたるものを、ワクチンの場合は「副反応」といいます。どんな薬にも副作用の可能性があるように、どんなワクチンにも副反応が起こる可能性があります。主な副反応には次のようなものがあります。

(1) 局所反応:接種部位が赤くはれたり、硬くなったり痛くなったりすることで、ワクチンの副反応としてはもっともよく見られるものです。生ワクチンより不活化ワクチンやトキソイドによく見られ、三種混合ワクチン(DPT)では初回で10~30%に、2回目以降は30~50%で見られると言われます。対応としては腫れたところを冷やすことが勧められます。腫れがひどいほど熱も出やすい傾向があります。

(2) 過敏症状:発疹や発熱などで、接種後2日以内に見られますが、接種後7時間くらいで見られることが多いようです。ワクチンの成分に対するアレルギー反応と考えられています。発熱に対しては、熱が高ければ解熱剤(アセトアミノフェン=パラセタモール)で対応します。

(3) アナフィラキシー:接種後1時間以内に発疹、蕁麻疹、発汗、血圧低下などが起こるもので、命に関わることのある副反応です。接種後30分以内に見られることが多いので、接種が終わってもしばらくその場(医療機関)にいて様子を見ることが勧められます。

(4) 生ワクチンによる副反応:生ワクチンは生きたウイルスを利用しているため、その病気の軽い症状(発熱、発疹など)が出ることがあります。ウイルスが増殖してから起こるため、接種1~2週間後に見られます。

 このほかやや特殊なケースですが、血小板減少性紫斑病(ITP)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などもワクチンの副反応として知られています。ワクチンで副反応があった場合は、次に接種する際に必ず申し出るようにしてください。

4.インドで生活するにあたり、接種することが勧められるワクチン

(1)成人の場合
 破傷風、A型肝炎、腸チフス、B型肝炎、日本脳炎、ポリオ、MMR注1、狂犬病

(2)小児の場合(日本で定められた予防接種に追加すべきもの)
 ポリオ(合計4回以上)、A型肝炎注2、腸チフス注3、B型肝炎、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、水痘(みずぼうそう)、インフルエンザb菌(Hib)注4、髄膜炎菌注5、狂犬病

注1:MMR(流行性耳下腺炎、麻疹、風疹の混合ワクチン)は、すでにかかっていれば、
接種の必要なし。
注2:A型肝炎の予防接種は、日本では16歳以上が対象だが、海外では1歳以上が対象。
注3:日本では腸チフスワクチンの接種は困難(実施している施設もある)。2歳以上が対象。
注4:Hibワクチンは今年から日本でも接種できるようになったが、供給が遅れており
3月以降になる見込み。インドでは接種可能。
注5:日本では認可されていない。

 インドに赴任することが決まったとたん、毎週のようにワクチンを打つことになったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。病気を予防するためとはいえなかなか大変です。今回挙げたワクチンをすべて接種しなければならないと言うつもりはありません。年齢、職業、ライフスタイルなどにより優先順位は異なると思います。医師とよく相談して必要なワクチンを選択し、効率のよい接種スケジュールを立てることをおすすめします。

 なお、予防接種による免疫は時とともに弱くなってしまいます。それぞれ適当な時期に追加接種を受けるようにしてください。

一口メモ:ニュー・デリーの主な病院の印象を一言ずつ。いずれも安心できる医療レベルです。

Apollo:トップクラスの病院であることは間違いありませんが、ちょっと大きすぎて初めて行くとどこに何があるのかわかりにくいですね。初めての方は入り口を入ってコンコースのような広い通路を右に行ったところにある、Exective Laungeへ行くと良いでしょう。

Fortis(Vasant Kunj):医師が病院に雇用されているため、基本的に日中であれば目的とする医師がいないということがありません。また、入院の場合どのランクの部屋でもDoctor Feeが同じです。ただし、この病院では心筋梗塞など心血管系の緊急治療はできません(同系列のEscorts Heart Instituteへ移送)。

Max:Panchsheel Parkは外来専門で、ちょっとしたことで受診するのに手頃。ここには健康診断専門フロアーがあります。Saketは心血管センターも併設。救急車をニュー・デリー及びその近郊の全系列病院に配置し(合計11台、Saketには4台)、市内であれば30分以内に派遣できるとのことですが...(救急センター電話番号:40554055)。

>> BACK <<