夏の暑さ対策

 2008年5月
                        在インド日本国大使館
医務官 藤嶋浩司

 4月に入って気温がグングン上がり、ニューデリーも本格的な夏を迎えました。この原稿を書いているのは5月はじめですが、気温は毎日40度前後まで上がっています。今回は「夏の暑さ対策」と題して、熱中症と紫外線による障害をとりあげます。

1.熱中症
 熱中症とは高温環境の中で発生する障害の総称で、熱失神、熱疲労、熱けいれん、熱射病に分けられます(これとは異なる分類もあります)。このうちもっとも重篤なのは熱射病で、日本でも夏場の運動中などに熱射病で亡くなる人が少なくありません。

(1)熱失神(Heat Syncope)
 私が子供の頃、夏の暑い盛りに校庭で朝礼があると誰かが倒れたりすることが時々ありました。この多くが熱失神で、暑さのために血管が拡張し、血圧が下がって脳に十分な血液が行かなくなるために起こると説明されています。対応としては日陰や涼しいところに連れて行き、足をやや高くして(頭を低くして)寝かせておくだけでたいていは良くなります。水分を補うことも有効です。自分で水が飲めない場合は病院で点滴を受けた方がよいこともあります。また大切なのは意識があるかどうかを確認することで、意識がない場合は熱射病の可能性がありますので直ちに大きな病院に運んでください。

(2)熱疲労(Heat Exhaustion)
 暑さのために発汗が増え、脱水となり血圧が下がって起こる脱力、倦怠感、吐き気などのことです。対応は熱失神の場合とほぼ同様です。

(3)熱けいれん(Heat Cramp)
 暑い中で汗をたっぷりかいたときにおこるこむら返りなどが熱けいれんです(小さなお子さんに見られる熱性けいれんとは異なります)。発汗によって塩分が大量に失われたにもかかわらず、塩分を含まない水のみで水分を補うと血液の塩分濃度が更に薄くなり、このようなことが起こりやすくなります。

(4)熱射病(Heat Stroke)
 人は暑いときに汗をかきます。汗をかくのは、蒸発する際に体から奪う気化熱で体温を下げるという暑さに対する生理的反応です。熱射病は体温の上昇に対し発汗等による体温低下作用が追いつかないときに、体温が上がりすぎて起こります。

 私はマラソン中に熱射病で倒れたことのある二人の方からお話を聞いたことがあります。お二人に共通していたのは、①倒れる直前まで意識はしっかりしていた、②それほど暑いとは感じず、汗もあまりかかないくらいで調子はよいと思っていた、③水分は十分とっていたつもりだった、④倒れたときのことは覚えていない(急に意識をなくした)、ということです。

 これらの共通項のうち最も重要なのは②です。汗をかかなかったのは暑くなかったからではなく、汗になる水分がすでに体に残っていなかったということです。そのため暑さと運動による上昇した体温を下げるすべがなく、熱射病になってしまいました。

 また④のように急に意識をなくすのも熱射病の特徴です。直前までは普通に見えるため周りの人も異常に気が付きません。

 熱射病で倒れた人に対しては直ちに日陰に運び体を冷やします。体を冷やすには、水をかけて扇いだり、首筋やわきなどの太い血管のあるところに氷やアイスパックなどをあてて血液を冷やしたりします。しかし熱射病は早く適切に治療しないと死亡する危険性が高い状態です。このような対応をしつつ速やかに病院に運ぶようにしてください。

 ちなみに例に挙げた二人の経過ですが、一人は近くにいた医師の適切な処置によりすぐに意識を取り戻しました。もう一人は急性腎不全となり人工透析を受け、数日後にやっと意識を取り戻しました(その後は後遺障害なく回復されました)。

(5)予防
  (1)~(4)を予防するためには次のようなことに注意しましょう。

・暑い中運動するときは、前もって体調管理に努める(寝不足、二日酔いはダメ!!)
・屋外では帽子をかぶる
・体をあまり締め付けるような服装は避ける(汗が蒸発しやすいように風通しを良くする)
・のどの渇きを感じる前に水分を(できればスポーツ飲料で)補う
・ 無理をしない

 急に暑くなったときや湿度の高いときは熱射病が起こりやすくなります。今の時期に日本から来られた方にとっては急に暑くなったのと同じですので、注意が必要です。普段汗をかかない生活をしていると、効率よく体温を下げる汗のかき方ができなくなります。日頃から少しでも体を動かして汗をかくようにするのも予防策の一つです。また、室内でも熱射病は起こりますので注意してください。

 なお熱中症につきましては、日本体育協会のホームページで詳しく解説されています。
 http://www.japan-sports.or.jp/medicine/guidebook1.html

2.紫外線
 かつて日焼けは健康的で体によいとされたこともありましたが、今では何かと悪者扱いのようです。ここでは紫外線の皮膚と眼に与える影響について簡単に述べます。

(1)皮膚
 紫外線の皮膚に与える影響については、私よりも女性の皆さんの方がよくご存じかもしれません。紫外線が真皮に与える傷がシミやしわの原因になることは今では有名です。また紫外線が皮膚細胞のDNAに与える傷は、皮膚ガンの元になることがあります。

 しかしもっとも身近な紫外線障害と言えば日焼けです。海へ行ったりしてつい日焼けしてしまうなんてこともあるでしょう。ひどい日焼けをしたと思ったらまずはぬれタオルなどで冷やしてください。最初の数時間はともかく冷やすことです。しかしそれでも痛みが残ることがありますが、その場合は乾かさないようにするとよいようです。ワセリンのような油性の軟膏を塗って食品を包むラップで覆うと痛みはずいぶん楽になるそうです(これは最近日本で仕入れてきたテキストに載っていたことなので、実はまだ試したことがありません。どなたか試されたら効果のほどを教えてください)。水ぶくれ(水疱)ができるほどひどい日焼けの場合は、皮膚科にかかった方がよいでしょう。

 紫外線対策として、つばの広い帽子をかぶる、日傘を差す、皮膚の露出部分を減らす、必要に応じてUVカットのクリームやローションを使用するといった方法があります。
 
(2)眼
 紫外線は目にも悪い影響があります。強い紫外線を長時間眼に浴びると角膜の炎症が起こることがあります。通常は1日で回復しますが、結構痛みが強いです。

 長期間の紫外線刺激が原因の一つと考えられているものの代表が白内障と翼状片です。白内障は加齢が主な原因ですが、紫外線や糖尿病も白内障を起こりやすくします。

 翼状片は目頭(時に目尻)の結膜から中心に向かってのびる白色繊維性組織ですが、紫外線やほこりが原因と考えられています。

 眼に対する紫外線対策としてはサングラスが代表的です。

<一口メモ:医務官というお仕事>

 本欄の担当の方から、医務官の仕事について、特に医務官と邦人とのつながりについて教えてほしいというリクエストがありましたので簡単にご紹介します。

 医務官の主な仕事として大使館員の健康管理、現地医療情報調査、邦人に対する保健相談があります。この中で邦人の皆さんに関わることは、医療情報と保健相談です。

 医用情報につきましてはホームページ等でご紹介したり、何か流行している病気があれば領事と協力して皆さんにお知らせしたりします。最近では西ベンガル州で発生した鳥インフルエンザについてお知らせしました。

 保健相談につきましては、本来は任地の一般的な医療事情に関するご相談をお受けすることになっておりますが、実際には個別の病気に関するご相談も少なくありません。ご相談内容にかかわらず可能な限りお答えするようにつとめていますので、医療・衛生に関することでご質問があれば気軽にご相談下さい。

 なお、「邦人の診療はしないのか?」というご質問を受けることもありますが、通常医務官は現地の医師免許を持っていませんので一般の方の診療はできません。ただし人道的見地から何らかの措置が必要と考えられる場合はその限りではありません(大規模災害など)。

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